平井雷太のアーカイブ

「声を聞く」とは「いいなり」ではない 2003/5/26

2003年5月より、毎日新聞『新教育の森』に連載された記事をご紹介します。

2003年(平成15年)5月26日(月曜日)

「声を聞く」とは「いいなり」ではない
−「やってみよう」へ大切な対応−

 子どもの自主性を尊重しようとか、子どもの声を聞くことの大事さが強調されるようになった昨今ですが、はき違えると、子どもの声に振り回されてしまうのでないでしょうか。子どもの声を聞くとは、子どもの言いなりになることではありません。

 ですから、私の教室に、お母さんに連れられてはじめて来た子どもに、プリントを見せて、「やる?やらない?」とは聞きません。なぜかと言えば、二者択一の決断を迫られて、教室に無理やり連れて来られたのかもしれないのですから、ついうっかり「やる」と返事してしまっては、塾に入ることに同意したととられては大変ですから、そう簡単には、「やる」とは言いません。「やる?」と聞けば、「やらない」と答える子が多いのです。そこで、その子に本当にやる気がないのかといえば、そんなことはありません。その子の学年と、算数が好きか嫌いかを聞いて、その子にとって簡単にできそうなプリントとちょっと難しいプリントとかなり手応えのある3枚のプリントを見せて、「どのプリントなら合格しそう?」と聞いてみると、ほとんどの子どもはできそうなプリントを選んで、自分でやってみます。この違いは何なのでしょうか?

 後者の方は「やる」前提で聞いているのです。子どもは「やりたい」に違いないのですから、「やらない」という答えを引きだすような聞き方はしません。

 こんな対応をし続けるなかで、ほとんどの子どもができることはしたい、できないことはしたくないと思っていることが見えてきました。ですから、できそうなプリントを選んだ子どもに、「いま、このプリントをやったからといって、それで教室に入ることにはならないから、とりあえずやってみようか。やってみれば、どんな学習かわかるし、やったあとで、塾に入るか、入らないかは自分で決めればいいよ。お母さんが、いくら『塾に入ってほしい』と願っていても、その期待に応える必要はないからね」と話しながら、「やってみよう」と言うと、まずはほとんどの子どもがやります。そして、ストップウオッチを使って時間を計り、自分で採点し、時間とミスの数を記録表に記入して、ミスを直して、その部分だけ再度採点し直し、「目安時間が3分のプリントは3分59秒以内、ミスが3個以内であれば合格。もし、合格していなければ、合格するまでやれば、誰でも合格するからね。どのように学習するかは自分で決めればいいよ。こんなプリントだったら、―日何枚ぐらいならできそう?」と聞いていきます。こうやってできるところから学習をしていきますと、どの子もできない個所に自然に取り組んで、できなかったところをその子なりにクリアしていくようになるのです。「子どもはできるようになりたがっているに違いない」という確信があったからこそ、「子どもの言いなりにならない対応」ができたように思うのです。    (つづく)


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