平井雷太のアーカイブ

「やる気のないまま」やる意味 2003/7/7

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第8回目を紹介します。

2003年(平成15年)7月7日(月曜日)

「やる気のないまま」やる意味
−必ず訪れるその時からが本番−

 私は、「やる気がなくなるとき」というのは、「その人が次のステージにすすむとき」だと考えています。ですから、私はやる気だけでやるのは問題だと思っています。

 子どもが教室に入ってすぐのときは、ものすごいやる気を見せます。例えば、「毎日、2枚やりたい」 「3枚やりたい」と言って、やる気にまかせて宿題を渡していると、必ず息切れします。早い子で2〜3日、遅い子で3ヵ月ぐらいして、「もう、あきちゃった。やる気ない」とそんな状態にほとんどの子どもがなるのです。これは、大人であっても同じです。そこで、次のような話をします。

 「やる気でやっていると、やる気がなくなるとやめてしまうでしょ。だから、やる気だけでやっていると続かなくなるのは自然だよ。やっとやる気がなくなったんだから、いまからが本番なんだと思うよ。やる気に振り回されないでやる練習はいまからできるけど、どうする?

 やる気のない状態にわざわざなる人はいないから、やる気がない状態が訪れたということは極めて貴重な体験をしているということなんだ。

 こんな話を聞いたって、もうやりたくないと思えば、やめてもいいし、いまだかつて、やる気のないままやる練習をしたことがないんだったら、それを体験してみるのもいいよね。

 なかなか合格しないというのは、本当は、それがあなたの課題で、壁なわけだから、それを越えたいと思っているなら、壁を越える方法を教えてあげてもいいよ。机に座っても、やりたくなくて、すぐにできないのなら、お母さんにストップウオッチを押してもらってもいいし、教室に通う回数を増やして、家での宿題はしないと決めて、教室だけでやるようにしてもいいし、もっとやさしいところにもどるとか、やる量をプリントのI列だけにするとか、できないことができるようになりたいという思いが少しでも残っているならやる方法はいくらでもあるからね」

 私がこんなことを確信を持って言えるようになったのは、私がそううつ病で十数年悩んだことと関係しています。ある日、精神科に行くと、話は聞いてくれたのですが、少しも楽にならず、袋一杯の薬をくれて、「これがなくなったら、また、いらっしゃい」と言われたのです。この薬を飲んだら、一生薬漬けになると思い、薬を捨てました。

 そして、この病は治らなくていいから、一生付き合おうと決めたのです。あきらめです。すると見えてきました。「うつだから、朝が起きられない」としていたのを、「うつのまま、起きる」をやってみればいいのだと思いました。しかし、それを一人でやってもすぐに挫折するのは目に見えていましたから、当時小学1年生だった息子と、「毎朝6時半に走ろう」と約束して、6年間起き続けました。

 そんな体験から、やる気のないままやることで、気持ちに振りまわされない練習ができることを発見したのです。     (つづく)

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