平井雷太のアーカイブ

指導力問う逆転の発想 2003/9/22

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』連載の記事の第14回目をご紹介します。

2003年(平成15年)9月22日(月曜日)

指導力問う逆転の発想
−子どもたちが学校、塾をテストする!?−

 最近、自治体単位で、学校別に子どもたちの成績を公表するところが増えつつあって、「これに対してどう思うか?」とマスコミから何度かコメントを求められることがあるたびに、「学校間の比較をするより、同じ学校で入学時と卒業時に同じ内容のテストを行って、その差を発表したほうがいいのでは……」と答えていました。

 中学校に入学したときに分数計算ができない子が、その状態のまま卒業に至ったというケースをこれまで何人も見てきたからです。

 しかし、そんな実態が明らかになると困るのは誰……? と考えますと、私の提案は実施されないだろうと思うのですが、私が教室で使っている教材を使えば、誰もが学校や塾の授業の質を「問う」ことができます。

 私の教室では入会時に、6年生以上であれば、それは大人でも、「小5‐25」という異分母同士の加減のまとめのプリントをやってもらうのですが、数学が得意だと自認する大人がやっても、15分という目安時間でできるのは63題のうちの半分ぐらい。

 ですから、このプリントを体験した人から、「ほんとうにこれを小5の子が合格できるのですか?」とか、「どうして、こんな時間でできなければいけないのか?」とよく聞かれますが、このプリントは、小1からの各単元から順にスラスラできる状態になって、各単元を確実に自分のものにして、ここに進んでくると、このプリントは誰もが15分で合格するのです。

 要するにこれは教える側が適当に決めた目安時間ではなく、学習する側の子どもが学習するなかで決まっていった時間です。

 さて、最近の学校別に子どもたちの成績を公表する動きですが、これは学校選択性にともない、中学校を選ぶときの事実上の参考資料となるわけです。学校間競争を起こし、学力を向上させたいとの意図で、競争の道具に使われてしまう子どもたちに、本当に学力がついていくのかは疑問です。

 本来、学校や塾を選ぶ基準は、子どもが学力をつけていくための「学習支援能力」がどのくらいあるのかだと思うのですが、現行の学カテストでは指導者の力量が問われることはなく、集まっている生徒の質だけに目が向けられる傾向があるでしょう。

 そこで、前述した「小5−25」のプリント」は確実な力がついていないと合格できませんから、たとえば定期的にこのプリントをやってみて、子どもたちに何の変化も起きていなければ、基礎学力が向上していないことがわかります。その結果、一人一人の子どもたちを見ていなければ、「学力」や「習熟」は身に着かないこともわかるでしょう。学校や塾が子どもたちをどのように支援をしているのかを子どもがテストするという逆転の発想で、教育を学習者の手に取り戻すことをしてみませんか。

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