平井雷太のアーカイブ

親捨て、子捨てができれば 2004/10/25

毎日新聞『新教育の森』に連載された「一人ひとりの子どもたちへ」の第1回目の記事をご紹介します。

2004年(平成16年)10月25日(月曜日)
一人ひとりの子どもたちへ?@

親捨て、子捨てができれば

 いま小・中学校では、総合学習の時間を使って、さまざまな職場を体験することが盛んですが、そのブログラムの中にさまざまな家庭を体験することや擬似親子体験を入れたり、児童養護施設で暮らすことなどもやってみるといいのではと、ふとそんなことを思うのです。それは、子どもたちが殺されてしまう事件があまりにも多いからです。

 自分が暮らしている家庭しか知らなければ、それがすべてだと思い、そこから出るなんてことは考えもしないでしょう。しかし、子どもたちが例えば児童養護施設の存在を知り、そこで子どもたちがどんな生活をしているかを見れば、自分もここで暮らしてみたいと思う子が現れ、何人もの子どもの命が救われるはずです。

 私が作ったらくだ教材(教えられなくても、一人一人のペースで学べる教材)がいくつかの児童養護施設で使われていることもあって、施設を訪ねて、定期的に職員の方の研修のお手伝いをさせていただいています。

 以前は自分の暮らしている施設に友だちを連れてくることなんてほとんどなかったのに、最近ではこく自然に友だちを連れてくる子どもがいるといいます。そして、大きな家で多くの子どもたちが一緒に暮らしている様子を見て、一般家庭で育っている子どもたちがうらやましがっていると聞いたことがありました。

 こんな実態はほとんど知られていないでしょう。訳あって親と暮らせず、施設で暮らす子どもたちをかわいそうだと思っている児童養護施設の職員の方もいらっしゃるでしょうが、逆に、この子たちは恵まれていると思っている職員の方も増えています。

 昔は、孤児院と言われ、戦争孤児を預かるところからはじまった施設ですが、いま預けられている子の9割には親がいます。だからこそ、事情は複雑です。この親と暮らしているとまずいと判断されて、親から切り離すのですが、親は子どもと住みたがったりします。子どもは親を不憫に思い、週末になると、親元に帰ったりしますが、子離れのできていない親こそが問題なのです。

 親捨て・子捨てができれば、お互いどんなに幸せになれることか。親が子どもを施設から家庭に引き取っても、子どもが自分の意志で施設に逃げ帰ってくるケースなど、いい例でしょう。施設に預けられ、家庭と施設とどちらの環境が自分にとってふさわしい環境であるかの判断ができたのです。親も子も互いに育ちあえる支援こそ急務です。適切な情報こそを子どもに手渡したいと思わずにはいられません。     (つづく)

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