平井雷太のアーカイブ

相手に寄り添って聞く 2004/1/19

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第25回目をご紹介します。

2004年(平成16年)1月19日(月曜日)

相手に寄り添って聞く
−大人の思い込み 押し付けていないか−

 前回、2人で組んで相互に聞き合い、相手の話をメモしたものをまとめるという「インタビューゲーム」をすると、「文を書くのは苦手」「編集などしたことない」という人でも、書く力や編集力が育っていくと書きましたが、今回は「聞く力」についてお話しした
いと思います。

 このインタビューゲームのポイントは、「三つのルールと二つの注意事項」にあります。

 まず、?@「聞く側は何を聞いてもいい」というルール。日常会話では「こんなことを聞いたら、相手は気を悪くするかな」と勝手に自己規制をして、うわべだけの会話になりがちですが、このルールがあると「どうしてそう思ったの?」などと、相手の話を深く聞いていけるのです。そうすると、先入観で相手を決め付けていたことがくつがえされることがあります。

 そして?A「聞かれる側は、答えたくないことは答えなくてもいい」というルールがあって、いやなことは「パスします」と言えるので、それは聞く側の安心にもつながっています。そして、?B「聞かれてないことでも話していい」というのは、「話したいことを全然聞いてもらえなかった」ということが起きないためのルールです。

 注意事項は、?@自分が聞き役のときは、自分の話をしたくなっても聞く側に徹する。?A相手が話しているときに、次に何を聞くかを考えず、相手の話が終わったときに、フッと浮かんだことを問うというものです。

 インタビューゲームの後の感想を聞くと、多くの方が、問われて話すことの気持ちよさと同時に、普段、いかに自分が人の話をいいかげんに聞いているかということにも気づいていきます。相手の話を取って自分のことを話しはじめたり、自分の興味のあることしか聞くことができなくて質問に詰まったり、勝手な思い込みで相手を決め付けていたことに気がついたりします。そして、何度かそんなことを経験しているうちに、相手に寄り添って聞くということがどういうことなのかを体得していきます。

 子どもたちは普段、先生や親に自分のことを十分に聞いてもらっていると感じているでしょうか?

 大人たちの勝手な思い込みを子どもたちに押し付けてしまい、そこからたくさんの問題が起き、教師や親が困っている状況も見られます。いま「聞く力が重要」と方々で言われていますが、聞く力を身につけていく具体的な手法として、子どもや教育にかかわるたくさんの方々に、このインタビューゲームの体験をお勤めしたいのです。

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