平井雷太のアーカイブ

企業も次世代育成支援 2004/3/8

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第31回目をご紹介します。

2004年(平成16年)3月8日(月曜日)

企業も次世代育成支援
−上司と部下の関係 ヒントに−

 先日、「保育所は『雇用』『女性』だけの問題か? 〜“乳幼児教育”が日本の将来を致命的に左右する!!〜」というテーマのシンポジウムで、社会保障給付費全体に占める高齢者関係給付費の割合は68・7%、児童・家族関係給付費の割合はたった3・7%であることを知りました。「子育て」を親だけの責任にされ、社会で子どもを育てるということが常識になっていないのですから、「子どもなんてつくりたくない」という人が増え、少子化がすすむのは当然の流れでしょう。

 そこで、厚生労働省は少子化を防ごうと、「次世代育成支援対策推進法」を作り、地方公共団体と企業に対して、「次世代育成支援」を行う具体的な行動計画を出すことが平成15年7月9日に義務づけられました。いままで教育といえば家庭、学校、地域が担っていたところに、企業が入ってきたのですから、画期的な方向転換です。そして、育児休暇をとって、子育てにかかわったことで、社員のキャリアがアップするなら、企業は積極的に次世代育成支援にかかわっていくだろうという話を聞きながら、私自身の「子育て」そのものがサラリーマンをしていたときの体験がベースになっていたことを思いだしました。

 私が、会社を辞めて、わが子の子育てに本腰を入れて取り組んだとき、ヒントにしたのが、企業のなかで見た上司と部下の関係のありようだったのです。自ら仕事を生み出し、自分からすすんで仕事をする部下の上司は、指示・命令をほとんど出さず、忙しそうに見えません。それに対して、忙しそうに動いて、部下に細かく指示を出す上司の部下は指示待ちがほとんどで、30分でできる仕事に何時間もかけるような仕事の仕方をしていました。こんな経験から、私が子育てをするときには、指示・命令で子どもを動かさない子育てができないかと考えたのです。

 「手をあげない・どならない・教えない」というタガを自分にかけて、息子とかかわったことで、私が子どもの学ぶものを決めなくても、子どもが自分で自分の学ぶものを決めることができるとの確信が、「らくだ教材」が生まれたきっかけになったのです。もちろん、教材だけがあっても、子どもが自ら学ぶようにはなりません。この教材を媒介にして、教材を手渡す指導者には、「コーディネーター力・コミュニケーション力・情報生産力」の三つの力が要求されることがわかりました。考えてみれば、それらは企業のなかで自発的に仕事をしていく上で、これからのサラリーマンに求められる能力ですから、これらの能力が子育てを通じて得られるとしたら、いま企業が次世代育成に本気で取り組むことは、企業の未来に大きな影響を与えていくことになりそうです。

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