平井雷太のアーカイブ

「生きる力」はぐくもう 2004/4/26

2003年5月より毎日新聞『新教育の森』に連載された記事の第36回目をご紹介します。

2004年(平成16年)4月26日(月曜日)

「生きる力」はぐくもう
−万人に「セルフラーニング」を−

 去年の5月から続いた連載も今回で、最終回です。この連載で伝えたかったことは「セルフラーニング」ですが、「セルフラーニング」といっても、「それは『自学自習』でしょ」と思われる方がほとんどでしょう。普通に使われている「自学自習」は、学ぶものを教師が与えるため、「やらされる自学自習」になってしまいますが、私の考える「自学自習」は、「自分からやる自学自習」、それをここでは「セルフラーニング」と呼んでいるのです。

 そこで、「セルフラーニング」という学び方の特徴を挙げてみると、「自分の学ぶものは自分で決める」「できる・できないを考えず、とりあえずやってみる」「目的を持たずにただ、し続ける」の三つがあります。

 私は、「セルフラーニング」を実現させるために、自分の学ぶものを自分で決められる教材を作りました。そして、その教材で学ぶ子どもたちを見ているうちに、「受験のため」とか「分数計算ができるため」と明確な目的を持って学習している子どもたちより、目的を持たずに、ただたんたんとし続ける子どもたちの方がどんどんたくましくなっていく姿を見ながら、私も何か自分のすることを決めて、目的を持たずに、ただたんたんとし続けるとどうなるか、見えない先が見たくなりました。そこで、「毎日書く」と決めて12年、いまだ発見の連続だから続いているのだと思います。

 おかけで、こつこつし続けることが苦手だった私が、「書きたくないときに書く」と何を書くのだろうかと、そんなことさえ楽しみになってしまったのですから、一体どうなっているのだろうと思います。そして、気が付いてみると、「決めること」が「毎日書く」だけでなく、「二度寝はしない」とか「風呂は朝入る」「毎日30分以上は散歩する」とか日常生活のなかでもいくつも増えて、数が増えるにしたがって、生活が楽になっていくのですから、決めることで、自由を手に入れることができるのかもしれないと思うようになりました。

 「自分で決めたことが実現できるようになること」と、「自分に起きる縁を受け入れ、『できる・できない』を考えないでやってみること」の二つが身に着けば、「生きる力」は備わっていくのだと実感しました。そして、それをし続けること、それに寄り添ってくれる人の存在、それらを総称して私は「セルフラーニング」と呼んでいるのです。教育にかかわった32年の経験から、「生きる力」をはぐくむ学び方が、この「セルフラーニング」に潜んでいることがわかり、私は今、21世紀を生きるすべての人たちに、この新しい学び方を提唱し続けたいと思っています。


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